実施主体:みなべ川森林組合、対象里山林:町内民有林8,280ha
みなべ町は、ウバメガシ等の堅木を原木とする最高級の白炭、備長炭の産地です。備長炭は都市部に流通していますが、産地では今、原木が不足していく傾向にあります。本来は、生長の遅いウバメガシ等の原木を優先的・継続的に育成するために択伐施業という方法が採られてきました。択伐施業とは、密度調整伐により生長の遅い備長炭原木になる樹種が優先する林相を維持する方法です。炭材になるカシ類は一定の径以上のもののみ抜き切りし、細いもの及びカシ類と同程度の樹種は残して生長の早いシイなどは除去、その後下刈りなどの管理を行い、約15~20年周期で再度択伐するという方法です。しかし近年は効率的な皆伐などが見られ、そのような施業の後は生長の早いシイなどが優先する山となり原木が不足していく傾向にあります。さらに近年、シイカシ林にナラ枯れが入ってきており、製炭産業に影響しかねない状況となっています。
ウバメガシ以外の材は、かつてはシイなど除去した樹種でも雑炭やパルプ等として用途がありましたが、現在はその利用価値が低下しています。
択伐施業により備長炭の原木林を持続的に活用していくためには、ウバメガシ以外の樹種について採算性のとれる形で活路を見いだし、総合的な森林資源の活用により、備長炭原木林としての健康な山を維持し、持続可能な森林経営の仕組みを再構築することが課題となっています。きのこ菌床や農業用ボイラー燃料等、地域での新たな利用価値を創出し、択伐施業と備長炭生産を支える包括的なバイオマス活用の仕組みと、併せて択伐施業の技術を確実に普及継承するための対策や人材育成方法を検討していくことが必要です。
平成24年度は①シイなどウバメガシ以外の材の出口調査と、②バイオマス活用研修、③農業用ハウスへの薪ボイラー試験導入を行いました。
出口調査では、シイの小径木は菌床栽培を行う事業者が買い取りを行っていることが分かりました。択伐施業に伴い15~20年周期で適切に更新していけば、シイにも活路が開けます。ただ現状ではシイ大径木が増えているため、この活用法と実際の伐採搬出方法を考える必要があります。大径木の活用法については、燃料利用の可能性を調査するため町内のボイラーを調査し、民間事業者でボイラーの交換時期が近づいている施設がありました。ただし安定供給体制が課題です。
燃料利用を推進するには需要の創出とともに安定供給体制を構築する必要があることから、森林資源の集積・流通の仕組みづくりに関する勉強会、薪の生産・販売・配達を事業として行っている事業体の方を講師に招き勉強会を開催しました。
また試行的な取組として農業用ハウスへの薪ボイラー利用の可能性を探るため、地元農業者らとともに試験的に一機を導入。初めてだったため改良点は多々あるものの、取り組もうとする農家らとの繋がりができ、具体的な動きのスタートを切ることができました。
今後は、薪の需要の供給の実績を少しづつ積み重ねつつ、以下にとりくみ、伝統的な技術を活かした持続可能な森林経営を目指します。
1)ウバメガシ以外の樹種の需要創出と安定供給体制の構築
2)択伐施業の確実な実施・浸透のための独自の森林認証制度の検討
3)大径木化した天然林の更新・改善体制の構築