森林総合利用推進事業の概要
近年、全国各地で、利用価値が見い出せず放置される里山林が増加しています。その結果、生物多様性の低下や鳥獣被害の拡大、ゴミの不法投棄、土砂災害の危険等が増加しており、里山林の再生が喫緊の課題となっています。
一方、里山林の現況は、補助事業やボランティア等による整備が行われてきたものの、利用価値が見いだせない里山林や不在村森林所有者の増加等により、放置里山林は減少していないのが実情です。
今後の里山林の再生は、単に森林を整備するだけでなく、里山資源の新たな利活用や森林体験活動の場として活用する等、里山林の新たな利用価値を見いだすことで、地域の取組意欲の高揚を図り、地域による自立的・継続的な取組への転換を早急に図っていく必要があります。
本事業では、里山林の整備から資源の利活用(森林体験活動を含む)、実施体制の構築等を含む、トータルなマネジメントに有効な里山林再生のマニュアル作成、ならびに人材育成、情報発信を行うことにより、自立的・継続的な里山林再生の取組推進を図ります。平成22年度より毎年3箇所の実践地域を設定し、地域ごとに3年間を目処に体制の構築、整備活動と利活用の取組の試行、調査・検証等を行い、地域ごとの里山林整備指針(案)を策定しました。また3年間取組をもとにマニュアル『里山林を活かした生業づくりの手引き』と事例集等をまとめました。
(平成24年度で本事業は終了しております。記録として残してあります)
めざす里山林のイメージ
―古の里山とこれからの里山の位置づけ―
★里山林と生業づくりの地域固有性
里山林の利用(山菜、焼き畑、柴、燃料の使い方など)には、地域ごとに異なる持続的な利用形態や半栽培形態があります。例えば、落葉掻きとマツタケの採取や野焼きとわらびの関係など、里山に手を入れることで収穫物を得るしくみがあります。ある地域で、自然を壊すことなく恵みを得ることは、「その地域で独自に根付いた」技術です。これは、科学技術とは合い入れにくいことです。その背景となる自然や地理的条件には普遍性がないからです。
ただし、時間的に普遍性があります。暮らしていくための技術は、「持続可能」であることが必然です。農山村や里山林では、科学技術に見られる場所的な普遍性ではなく、時間的な普遍性が、自然との対応の中で成立してきました。また、同様の自然条件があれば、地理的に離れていても、技術や手法に共通点が見いだされることもあります。
農山村や里山林の恵みが都市部にももたらされることで、都市の生活は成り立って来ました。その恵みは、食料や木材等の素材だけではなく、水源の涵養、大気の浄化、治山治水、生物多様性の保全、二酸化炭素の吸収等の公益的な恵みもあります。また、たくさんの地域固有の技術(生活文化)の蓄積が、日本の国土を支えているのです。
近年、農山村の過疎化や高齢化が問題となり、限界集落や離村ということも現実的な問題となってきています。ムラが失われていくということは、その場所で生きていく技術や手法がまるごと失われるという意味であり、持続可能な暮らしを支える文化の喪失は、都市の暮らしの危うさや国土の崩壊とも無縁ではありません。最も、近年の日本人の生活は、食料もエネルギーも素材も、その多くを海外の資源に頼っている現実がありますが、そのような暮らしが本当に持続可能で安全が保証されたものかどうか、考えなければなりません。
★都市にはない自然との関わり:暮らしをつくる力
里山林や農山村の再生には、都市との協働が必要ですが、そこで目指すのは、実際のフィールドとなる自然環境や地域の再生には留まりません。農山村が困っているから都市に助けを求めるという考え方ではなく、都市住民を含む人々の生活を持続可能にし、日本の国土を保全するため、また、情緒豊かで粘り強い人材を育成するため、という視点で新たな交流活動を構築します。経済の低成長社会では、都市では雇用の不安が生じます。お金だけに頼る消費生活とは異なるライフスタイルや生きる力、食べ物や燃料をはじめとする衣食住を賄う能力、暮らしをつくる人材育成が、今後、重要になってきます。
都市の視点では、自然は、守る対象ですが、里山林に見られるムラの自然は、資源として保全、活用しながら人が暮らしてきた結果です。それを現代の生活に活かしていくための取組が、これからの日本のために必要です。
★新しいコモンズの創出:都市の専門性を活かして
都市の人には、普段の仕事での専門性があります。都市の人の専門性を利用し、取り入れながら、地域資源の活用を考え、新たな生業を創出します。
知恵の継承のためには、都市と農村の関係をあらためて構築する必要があります。これは、持続可能な社会をつくるために、現在にも、100年後にも通用するムラとの関係を再生することが都市側にとって必要だということです。
新たな里山文化の創造を、私たちは目指します。
事務局・お問い合せ
本事業は下記2者の共同で実施しました。代表事務局は東京農業大学農山村支援センターです。
お問い合せ等は農山村支援センターまでお寄せください。
東京農業大学 農山村支援センター
〒156-8502 東京都世田谷区桜丘1-1-1
TEL:03-5477-2678 FAX:03-5477-2609
mail:contact@nousanson.jp
NPO法人共存の森ネットワーク
ホームページ:http://www.kyouzon.org/