里山林保全活用指針作りのための参考事例集

都市住民との連携・交流が紡ぐ里山文化の継承

◆主体名(活動場所)
NPO法人かみえちご山里ファン倶楽部(新潟県上越市)
URL:NPO法人かみえちご山里ファン倶楽部 http://homepage3.nifty.com/kamiechigo/

◆事例の概要
新潟県上越市の桑取谷(桑取、谷浜、中ノ俣、正善寺地区)では、かつて養蚕と農業を中心とした暮らしが営まれており、今なお、雪国の民俗文化を色濃く残す伝統技術や祭、行事が伝えられている。「かみえちご山里ファン倶楽部」は、同地を活動の拠点とし、地域の自然や景観、文化、産業を守りながら、新たな里山文化を創造するめの活動を行っている。

◆取組内容
「かみえちご山里ファン倶楽部」が生まれた背景には、「木と遊ぶ研究所」の活動がベースにある。同研究所は、もともと地域材で製作した家具の産地認証を行うNPOとして発足したが、ボランティアによる森林整備に活動の場を広げ、桑取谷との接点ができたことをきっかけに、平成12年に同地区で伝統的な生活技術に関するアンケート調査を実施した。調査は、桑取谷の全世帯(約500世帯)を対象とし、火をおこす技術から家をつくる技術まで、さまざまな生活技術のデータベース化を図った。しかしながら、恐らくそのほとんどの技術は、それを伝える人とともに十数年後には消えてしまうであろうことにも気付く。
「かみえちご山里ファン倶楽部」は、同調査をきっかけに里山文化の喪失に危機感を抱いた地域住民や行政、市民等が集まり、結成。平成14年にNPO法人としての認可を得て、現在、桑取谷の地域資源を活かした、主に以下の活動を展開している。
【受託事業】
(1)くわどり市民の森
 桑取谷の奥に位置する「くわどり市民の森」の運営管理を、市から受託している。約272haの同エリアには、ブナ林や雑木林などのほか、棚田や炭焼き窯の跡が点在し、一般市民や子供たちを対象に里山整備や炭焼き体験などを通じた環境学習を実施している。
(2)上越市地球環境学校
 旧中ノ俣小・中学校を拠点とする「上越市地球環境学校」の運営管理を市から受託している。中ノ俣地区の里山フィールドには、萱葺き民家や炭焼き小屋、棚田などがあり、生きた里山文化を、そこに暮らす人たちを「先生」としながら体験することができる。また、同地区の暮らしを都市の暮らしと対比しながら、地球規模の環境問題まで考えられる人材育成プログラムを提供している。
【地域活動支援】
 地域住民が中心となって行う民俗行事や伝統行事の活性化を目指して、その記録保存活動を行っている。長年途絶えていた小正月の行事や盆踊りなどの復活にも取り組む。
【地域資源事業】
 地域の伝統文化や自然、生活技術などを活かした体験活動を自主事業として行っている。日帰りや一泊体験のほか、「棚田学校(棚田での米づくり体験)」や「ことこと村づくり学校(古民家改修事業)」のように通年型のプログラムも用意している。
【地域教育事業】
 地域の一員として地元小学校と連携し、地域の子どもたちを対象とした教育活動を実施している。

◆実施体制・仕組み
 同NPOは理事13人のうち11人を地域住民で構成している。また、専従スタッフ8人のうち7人は県外の出身、ほか1人は市内出身のUターンの若者たちである。「くわどり市民の森」の運営などの受託事業を実施することにより、組織の運営基盤を確保し、地域資源を活用した「ことこと村づくり学校」や「棚田学校」などの自主事業を展開している。

◆成果
 桑取谷に今も息づく暮らしや文化そのものに価値を見出し、地域住民を「先生」として位置付けながら、都市住民や若者たちをつなぐ体験交流活動に成果を上げてきた。また、同NPOは事業展開の目標として、以下、「10のまかない」を掲げているが、それらを具体化することにより、過疎高齢化がすすむ同地域における里山文化の再創造や地域活性化にも寄与している。
<10のまかない>
① 水のまかない② 農のまかない③ 天然採取物のまかない④ 水産資源・塩のまかない⑤ 森林資源のまかない⑥ エネルギーのまかない⑦ 生活文化・生活技術・民俗伝統・景観のまかない⑧ 教育のまかない⑨ 福祉のまかない⑩ 地域内循環産業・経済のまかない

桑取谷の棚田景観 伝統行事「大持引」
小正月行事の伝承 「ことこと村づくり学校」での水車づくり

*写真:NPO法人かみえちご山里ファン倶楽部ホームページより