里山林保全活用指針作りのための参考事例集

企業との協働による、里山林の環境教育プログラムへの活用と事業化

◆主体名(活動拠点)
財団法人キープ協会(山梨県北杜市)
URL:財団法人キープ協会 http://www.keep.or.jp

◆事例の概要
 財団法人キープ協会では、企業と連携して森林を環境事業の場として活用している。その中には、企業が社会貢献活動として外向けに行う環境教育事業における協働と、企業が行う社員研修の一環として行うものとがある。特に後者は、森林を活用した環境教育に対する新たなニーズと可能性という意味で重要である。様々な仕掛け(プログラム)を通して、環境貢献に対する社員の意識向上、森という日常とは異なる環境の中での創造の試み、伝える技術と重要性の学びなどの機会を得ることができる。

◆取組内容
財団法人キープ協会は、平成初め頃から自然体験型の環境教育を実践している。指導者養成事業から始まったキープ協会の環境教育事業は、その対象を子どもから大人まで広げ、主に以下の事業を展開している。
・幼児対象の「森のようちえん」
・地域の子ども対象の自然遊びを展開する「清里子ども自然クラブ」
・小~大学生対象の「自然体験&酪農体験プログラム」
・米作り、生き物調査、文化調査、教育研究を4本柱とする「八ヶ岳田んぼの学校」
・健康づくりをテーマにしたプログラム「森療時間」
さらに、平成12年頃からは、企業との連携・協働による環境教育事業にも意欲的に取り組んでいる。その中には、森というフィールドを用いて社員研修を行う「社員(内)向け環境教育」と、企業が社会貢献活動の一環として行う「社外向け環境教育」がある。「社員(内)向け環境教育」は、社員のモチベーションアップ、チームビルディングを目的として、自然体験や人間関係トレーニングの実習、環境コミュニケーションの実習と講義を社員研修の一環として実施している。一方、「社外向け環境教育」の例としては、飲料会社と協働し、子ども対象に森と水の大切さを伝える森林環境教育プログラムを企業所有の森林で展開している。

◆実施体制・仕組み
企業との協働事業については、環境教育事業の実施やアウトドアメーカー等から商品協賛を受ける等の取り組みを行っている。他に、「森療時間」は医療機関と、地域の子ども対象のプログラムに関しては学校や保護者と、それぞれ協働して運営している。また、大学や研究機関と協働した実践と研究の橋渡し、JICAの各種研修事業の受入を行うなど、多様な組織・人との協働によってプログラムを実施している。
 キープ協会のスタッフは指導者養成研修を受けており、環境教育・生物多様性の講義および自然体験型環境教育プログラムの実施が出来る人材が育成されている。このため、社員研修等のプログラムの企画から運営までを受託し、組織として持続的な運営が可能になっている。
また、自然体験型環境教育プログラム実施に適切な森林体験フィールドとして約230haの広大な敷地があることに加え、宿泊施設・研修施設(会議室など)や独自の教育展示施設(やまねミュージアム、八ヶ岳自然ふれあいセンター)といった環境が整っていることも、企業や団体等がキープ協会を協働先として選定する重要な要素となっている。

◆成果
 社員研修を受けた企業の中には、実際に環境に配慮した行動へと発展している例もある。
キープ協会では、敷地内の森に生息している希少動物ヤマネの生息環境を保護するため、道路で断絶された森をつなぐ上空回廊「アニマルパスウェイ」を設置している。某通信会社の社員研修の中で、ヤマネが棲息する森の生態系とアニマルパスウェイが教材として取り上げられた。これをきっかけに、企業はCSR活動として、本業の電柱工事のノウハウを提供し協力することになった。この企業との協働により、アニマルパスウェイは既存のものより安価に設置することが可能となり、実際にヤマネ等の小動物が利用していることも確認され、その効果が現れている。
 ヤマネをシンボルとした森林生態系を学ぶことが環境教育の重要なプログラムになるだけでなく、その保全の取組とあわせて紹介するこことで協力者を広げることに繋がった。企業にとっては、本業で培ったノウハウを活かしてCSR活動を行うという成果にも繋がっている。


森の中での環境教育

アニマルパウェイ

*写真:山村再生支援センター第2回山村きぎょう会議 財団法人キープ協会提供資料より