里山林保全活用指針作りのための参考事例集

野生生物を指標とした里山林整備の推進

◆主体名(活動場所)
NPO法人グラウンドワーク西鬼怒・フクロウ営巣ネットワークプロジェクト
(栃木県宇都宮市、全国)

URL :NPO法人グラウンドワーク西鬼怒  http://www2.ucatv.ne.jp/~nisikinu.snow/index.html

◆事例の概要
 里山の生態系の頂点に立つフクロウの生息は、生態系の健全性をチェックする一つの指標として有効である。フクロウ営巣ネットワークプロジェクトでは、間伐や下刈り等の里山林整備と巣箱の設置を通じて、フクロウの営巣環境を整えている。現在、栃木県を中心に全国に拡大している。

◆取組内容
フクロウの営巣木となりうる大きな洞のある大木が、全国的に少なくなっている。このことがフクロウの繁殖率の低下につながっていると考えたグラウンドワーク西鬼怒では、平成17年、同会のメンバーを中心に、フクロウ営巣ネットワークプロジェクトを立ち上げ、フクロウを頂点とする里山林の保全活動を開始した。現在、全国各地への呼びかけを行い、ゆるやかなネットワークを形成し、フクロウの営巣環境の拡大に努めている。
 プロジェクトの目的は、
①フクロウとの出会いを求めて夢をふくらませる、
②フクロウに営巣箇所を提供し、猛禽類の生態系保全に努める、
③巣箱設置をとおして環境保全活動を啓蒙普及する、
④都市と農村の交流・地域のコミュニケーションをはかる、
⑤フクロウの生態を調査する、
としており、着実にその目的を達している。
 フクロウは、ネズミ・モグラなどをエサとすることから農家にとって有益な鳥であり、また雛が愛らしい鳥であるため協力を得やすく、フクロウの営巣環境づくりは、農家の利害と反しない。巣箱の設置場所は、雛の密猟を避けるため、一般人が立ち入りできない場所、農家の庭先や企業緑地等、管理と人の目の行き届いた場所が望ましい。つまり、農家や企業等、地権者との協働を行えることが巣箱の設置場所として不可欠な条件である。
 設置場所は、営巣と摂餌環境の視点から飛翔可能な開けた林があることが必要で、針葉樹と広葉樹・竹林との境や、エサとなるネズミやモグラ等が多い里山林と農村などの中間地域が好適地である。
 これまでの実施箇所では、私有林や共有林、また企業緑地とさまざまであるが、いずれもフクロウの営巣環境拡大に向けて協力を得られる農家や企業と連携し、里山林の保全整備と巣箱の監視を行える協働体制が構築されている。環境教育用に公開を希望する巣箱では、時期、回数、観察場所、安全管理、人数制限等の公開方法のルールを設け、普及と保護の両立が図られている。

◆実施体制・仕組み
NPO法人グラウンドワーク西鬼怒・フクロウ営巣ネットワークプロジェクトには、巣箱の形状や材質、周辺環境と設置場所との関係、里山林の整備作業等に関するノウハウが蓄積されている。この蓄積されたノウハウをもとに、フクロウの生息する地域づくりを希望する各地で、関係主体(農家、企業、NPO等)が協働して、営巣環境のチェック、巣箱設置箇所の選定、巣箱周辺の里山林の保全管理方法の検討、雛の密猟防止対策と情報管理等に関する情報共有を行い、取組を続けている。

◆成果
 フクロウの巣箱設置に関心をもった農家、企業、寺社等からの希望をうけ、これまでに115個の巣箱がかけられ(平成23年1月現在)、毎年30巣前後で繁殖が確認されている。那須の御用邸の里山林内(平成21年11月)や、奈良東大寺の寺社林内(平成22年11月)にも設けられ、北は新潟県から南は岡山県まで、フクロウ営巣ネットワークプロジェクトは拡大し、それぞれの設置箇所で林内の管理が行われている。企業では、ニッカウイスキーが、熟成棟周辺のネズミ等の繁殖を防ぎ商品への被害を最小化する効果を期待して、フクロウの巣箱を工場敷地の林内に設置している。フクロウの繁殖が安定した宇都宮市逆面町では、フクロウの生息する里の魅力をアピールし、減農薬・減化学肥料栽培、および有機栽培による「育む里のフクロウ米(商標登録)」としてのブランド化を平成22年夏に開始した。
 このような取組の広がりを受け、里山林に関心を持っていなかった農家、市民、企業においても、フクロウの営巣・生息環境の保全を通して、フクロウと共存した地域づくりへの関心が拡大している。


樹洞の役割を果たす巣箱の開発と設置
開発した巣箱の中で生まれた雛

親鳥が捕獲したネズミとまだ小さな雛

フクロウを通じた地域活性化

*写真:NPO法人グラウンドワーク西鬼怒ホームページより